シニアの雇用状況

日本の企業には定年制が根づいており、以前は60歳で定年を迎えるのが一般的だった。しかし、男性なら昭和36年以降、女性は昭和41年以降に生まれた人は、厚生年金加入者でも65歳からの受給となっている。もし60歳で定年を迎える企業に勤めている場合は、年金が受給されるまでの5年間は個人年金で乗り切るか、再就職などをして収入を確保しないと生活が厳しくなるだろう。

介護を必要としない元気で意欲的な高齢者は「アクティブシニア」と呼ばれ、社会の担い手として活躍してもらおうという動きが高まっている。団塊の世代が続々と定年に達する年齢を迎えことを踏まえて、退職後のシニアの雇用に関するさまざまな働きかけが行われている。

 

データから読み解く企業の高齢者の雇用状況

データから読み解く企業の高齢者の雇用状況

急速な高齢化に対応し、2013年に「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)を一部改正して施行されたが、これは企業に対して「定年制の廃止」、「定年の引き上げ」、「継続雇用制度の導入」のいずれかの措置を行なうように義務づける内容だった。高齢者が年齢に関わりなく働き続けることができるよう、少なくとも年金受給される65歳までは安定した雇用を確保するという措置だ。

それから約5年が経過した現在、厚生労働省が発表した「平成29年『高齢者の雇用状況』集計結果」によると、定年制を廃止または65歳以上定年とした企業は19.6%(3万656社)となり、前年度より2115社増加している。また、希望者全員が66歳以上まで働ける継続雇用制度を導入した企業は5.7%(1451社増加)、70歳以上まで働ける企業は、22.6%(2798社増加)という結果になっている。中小企業と大企業の合計15万6113社の状況をまとめたこの集計結果を見ると、年齢に関わりなく、生涯現役で働ける仕組みづくりが少しずつ進められていることが読み取れる。

 

アクティブシニアへの注目度

アクティブシニアへの注目度

埼玉県では、アクティブシニアの活躍を応援するプロジェクトを積極的に行っている。県が県内企業に対して、定年の廃止や継続雇用する年齢の引き上げを働きかけて、シニアが活躍する場を広げていこうというものだ。その1つに「シニア活躍推進宣言企業」認定制度というものがあり、これは県内に所在する企業を対象に、「シニアの定年や継続雇用の制度を見直す」、「シニアの雇用、働く場所・機会を増やす」、「シニアが安心して働ける環境を整える」といったいくつかの認定基準のうち、3つ以上満たしていると「シニア活躍推進宣言企業」に認定される。

埼玉県はこのほか、8市(さいたま、所沢、草加、川越、加須、春日部、深谷、秩父)に「セカンドキャリアセンター」を設置して就職に関する支援を展開。シニアを含むすべての求職者に対して、専任のキャリアコンサルタントが就職の相談に乗ったりセミナーの案内をしたり、求人情報紹介、面接対策、長期就業のサポートをするなど細かなケアしてくれる。

いっぽう、北海道では「生涯活躍のまち」という取り組み指針を掲げ、首都圏などの都市部で暮らすアクティブニシアを道内に移住・定住させることを戦略に盛り込んでいる。住民が住みやすく、なおかつ地域外から見て魅力があり、定住者も移住者も暮らしやすい町づくりを目指し、これからより具体的な働きかけを実施していく予定だ。

 

ハローワークによる支援

ハローワークによる支援

就労先を見つける糸口のひとつに、国が運営するハローワークがある。労働力の需要と供給をマッチングさせることが主な業務だが、窓口ではさまざまな相談を受け付けてくれ、有益な情報を得ることもできる。また、全国110カ所のハローワークに「生涯現役支援窓口」が設置されており、再就職を目指す55歳以上を対象に、要望に応じてシルバー人材センターなどの関係機関情報を提供したり、シニア世代に適した履歴書の書き方、面接のポイント、求人活動の方法をガイダンスするなど、細かなケアをしてくれる。

なお、シルバー人材センターは市町村ごとに置かれ、原則60歳以上で働く意欲のある人であれば会員登録できる高齢者の就労支援組織だが、「生きがいのための就労」を目的としているため、仕事は臨時的かつ短期的なもののみとなっている。雇用契約ではなく、地域の家庭や企業、公共団体などから依頼された仕事を引き受けると、会員から適任者を選んでその従事してもらう。このため、収入の安定性は十分とは言い難い。

 

中高年を介護の仕事の担い手に

中高年を介護の仕事の担い手に

定年退職したシニアを介護職員の担い手とする新たな研修制度も検討されている。介護の仕事には、掃除や洗濯、料理などを行なう「生活援助」と、食事・入浴・排泄などを支援する「身体介護」があり、このうち利用者の体に触れる「身体介護」は介護資格がなければ行なうことができない。介護資格によっては、大学や福祉系の専門学校に通わなければ受験資格が得られないものもある。そういった数ある資格の中で取得しやすいのが「介護職員初任者研修」だ。130時間の講習で取得できるこの資格が、これまでは介護資格の入門的な存在だった。

しかし、国はさらなる介護職員確保に向けて、新たな入門研修の実施を考えている。介護の仕事をしたことがない未経験者を対象とし、「介護職員初任者研修」の半分ほどの時間で、介護保険制度の仕組みや、着替えやトイレなど基本的な介助方法を教える。介護の仕事に対する心理的ハードルを下げて業界に入りやすくすることを狙い、主に退職した中高年層の取り込みを見込んでいる。この新たな入門研修は、2018年度からの導入が検討されている。

 

2018年2月15日掲載