広がりを見せる介護ロボット

介護施設が以前から人材不足が指摘されていますが、要因のひとつとして、腰痛などで介助ができなくなり、働き続けるのが難しくなることが挙げられるでしょう。そこで施設に介護をサポートするロボットが導入されるようになれば、職員の負担が減り、定着率が高まることが期待できます。

ただ、ロボット先進国と言われている日本ですが、市場化されてまだ間もなく、安全性や実用性の問題に加えて、価格が高額などの課題があり、なかなか導入が進んでいませんでした。これを解決しようと、国は「ロボット技術の介護利用における重点分野」を公表し、重点分野の介護ロボットの開発支援と導入支援を行ってきました。

 

介護シーンを助けるさまざまな介護ロボット

介護シーンを助けるさまざまな介護ロボット

国が定めた「ロボット技術の介護利用における重点分野」として、次の5つの分野が挙げられています。それは、1)移乗介護、2)移動支援、3)排泄支援、4)認知症の人の見守り、5)入浴支援の各分野。それぞれの分野の介護ロボットにもさまざまなタイプがあり、例えば「移乗介護」のロボットの1つに、介護する人が装着して体への負担を軽減させるものがあります。

 

腰の負担を大幅軽減する「マッスルスーツ」

腰の負担を大幅軽減する「マッスルスーツ」

介護施設で行われているあらゆる移乗動作では、介護職員の腰に負担が大きくかかります。そのような現場での腰痛を予防するためのロボットが、「マッスルスーツ」(株式会社イノフィス)です。腰への負担を低減させ、作業をスムーズに補助してくれます。

腰補助用「マッスルスーツ スタンドアローン」

写真は最新版の腰補助用「マッスルスーツ スタンドアローン」。非常に強い力で収縮する、空気圧式の人工筋肉を使用し、これが体を動かす原動力となり、人や物を持ち上げる際の体の負担を大幅に軽減します。

株式会社イノフィスは、「生きている限り、自立した生活を実現する」という企業理念のもと、実現が難しい夢のようなロボットではなく、人のためのロボットを開発し、製品化することを目指しています。この「マッスルスーツ」もそのひとつです。

株式会社イノフィス https://innophys.jp/

 

装着者の意思に従って動く「HAL」

装着者の意思に従って動く「HAL」

写真=Prof. Sankai, University of Tsukuba / CYBERDYNE Inc.

いっぽう、CYBERDYNE株式会社が手がける「HAL」は、身体機能を改善・補助・拡張・再生するサイボーグ型のロボット。人が「歩きたい」と考えたとき、脳から動作に必要な筋肉に信号が送られますが、「HAL」はその指令信号を皮膚に貼り付けたセンサーから生体電位信号として読み取り、装着している人が「どう動きたいか」を認識し、意思に従った動きを実現します。

「HAL」には、下肢の不自由な方の治療に使用する医療用と、重い荷物などを持ち上げる際に使用する作業支援用などがあり、介護支援用としては、「HAL 介護支援用(腰タイプ)」があります。装着することで、動作をサポートし、移乗介助や体位変換介助時にかかる腰への負荷を低減。防水機能もあるため入浴介助など幅広い場面で使用することができます。

CYBERDYNE株式会社 https://www.cyberdyne.jp

装着者の意思に従って動く「HAL」

写真=Prof. Sankai, University of Tsukuba / CYBERDYNE Inc.

交換式のバッテリーで駆動し、フル充電後の駆動時間は約3時間。コンパクトで女性でも使いやすい約3kgの軽量設計になっています。補助量をボタンで設定でき、ハイパワーになりすぎず制御できるよう安全面も配慮されています。

 

ベッドから車イスが分離する「リショーネPlus」

ベッドから車イスが分離する「リショーネPlus」

要介護者をベッドから車イスに移乗させる動作が必要のない、新発想の離床アシストロボットが「リショーネPlus」(パナソニック エイジフリー株式会社)。電動ベッドの縦半分が分離して電動リクライニング車イスになり、そのまま離床することができます。

ベッドは背上げ、足上げ、高さ調整といった一般的な介護用ベッドと同等の機能を備え、体圧を分散させる3層構造のマットレスを採用。リモコンで縦半分に分離し、手前に引き出すと、その部分が電動リクライニング車イスになります。合体と分離をセンサーが検知することで、ベッドの状態と車イスの状態で背上げの角度が異なるなど、別の動作を行えるようになっています。

「リショーネPlus」

「リショーネPlus」なら、移乗介助が介護職員1人で行えるようになり負担が大幅に減るうえ、所要時間も短縮できます。移乗する際のケガのリスクも軽減でき、寝たきりになりがちな重介護度の人でも離床しやすくなります。

車イスを再びベッドと合体するときは、車イスをフラットにして押し込むだけ。車イスの配置はベッドの左と右のどちらにも選べるので、部屋のレイアウトに合わせて使えるようになっています。2017年7月に貸与マークを取得したため、今後は介護保険を利用して在宅でレンタルするなど使用場面の広がりが期待できます。

パナソニック エイジフリー株式会社 http://sumai.panasonic.jp/agefree/

 

2017年8月8日掲載