日本人の平均寿命は、平成時代に入っても伸び続けた。そして、令和の時代に入っても、伸び続けることが見込まれており、少子化と相まって、日本は、どんどん高齢化社会が進んでいる。一方で、健康上の問題で、日常生活が制限されることなく生活できる期間(これを「健康寿命」という)との差は縮まらず、一向に医療費抑制につながっていない。また、生活する地域や経済的な環境によって寿命や健康に格差が生じる、健康格差問題も解決しなくてはいけない問題として浮上してきている。

厚生労働省が2018年7月20日に公表した、2017年の日本人の平均寿命は、男性81.09歳、女性87.26歳で、過去最高を更新したことがわかった。平成が始まった1989年より、それぞれ約5年延びているし、100歳を超える長寿者も非常に増えており、1998年に初めて1万人の大台を突破したが、2018年には既に69,785人に達している。

平均寿命の推移と将来推計

出典:内閣府「平成30年版高齢社会白書」(全体版)1 高齢化の現状と将来像
図1-1-4 平均寿命の推移と将来推計


日本人の平均寿命が、高い水準にあることは知られているが、高齢化率は、欧米諸国やアジア各国と比べても、極めて高い水準にあることがわかる。

平均寿命が伸び続けているもっとも大きい理由は「高齢者の死亡率低下」である。がん検診といった早期発見や、新たな治療薬の開発といった、医療の進歩によるものと考えられている。

世界の高齢化率の推移

出典:内閣府「平成30年版高齢社会白書」(全体版)
2 高齢化の国際的動向 図1-1-6 世界高齢化率の推移



平均寿命より、注目される健康寿命

2000年に世界保健機関(WHO)が提唱したもので、健康上の問題で、日常生活が制限されることなく生活できる期間とされている。

健康寿命の算出は、厚労省が2001年から算出をはじめ、3年ごとに公表している。2001年男性69.4歳、女性72.7歳だったものが、2016年には男性72.1歳、女性74.8歳となっている。健康寿命自体は、平均寿命と同じように伸び続けているが、平均寿命と健康寿命の差は、2001年男性8.7年、女性12.2年だったのに対し、16年男性8.9年、女性12.3年と、その差は一向に縮まっていない。平均寿命と健康寿命の差は、言い換えれば、自立して生活が送れないことを意味し、継続的に医療や介護を受けている期間といえる。そのため、世界的には、その差を縮めることが大きな目標になっている。

日本では、医療費を抑制するという狙いもあったが、病気だけでなく、食事や運動など、生活習慣にも目標を設定して、健康づくりの運動を推進するという「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」といった運動もスタートしている。総合的な健康づくりの取組みとしては初めてで、企業や自治体なども加わって、社会全体でムーブメントを起こし、メタボの認知や糖尿病の減少などにつながった。

さらに、2013年から始まった第二次の「健康日本21」は、社会的な要素も加わり、①健康寿命の延伸と健康格差の縮小、②生活習慣病の発症予防と重症化予防の徹底、③社会生活を営むために必要な機能の維持及び向上、④健康を支え、守るための社会環境の整備、⑤栄養・食生活、身体活動・運動、休養、飲酒、喫煙、歯・口腔の健康に関する生活習慣の改善及び、社会環境の改善などが明記され、具体的な目標数値も設定されている。わかりやすい目標には、食塩摂取量の減少(現在10.6g→8g)や、20~64歳の日常生活での歩数の増加(男性7841歩→9000歩、女性6883歩→8500歩)、成人の喫煙率の減少(19.5%→12%)などがある。

平均寿命と健康寿命の推移

出典:第11回健康日本21(第二次)推進専門委員会 H30年3月9日 資料1-1 平均寿命と健康寿命の推移
【資料】平均寿命:平成13・16・19・25・28年は、厚生労働省「簡易生命表」、平成22年は「完全生命表」引用



問題視される健康格差

高齢者

健康格差とは、所得や生活する地域、民族などの社会・経済的な環境の違いで、寿命や健康にも格差が生じている状態を指すものである。日本全体の平均寿命は伸び続ける一方で、1990年から2015年の平均寿命の延びを都道府県別にみると、最大1.6年の差が生じている。第二次世界大戦後には、国民皆保険制度や年金制度、学校給食などが整備され、社会的な影響による健康格差は生じなかったとされているが、平成時代になると、長引く景気低迷などで社会的格差が次第に拡大、子どもの貧困などが問題となってきた。

2016年の都道府県別健康寿命ランキングでは、男性のトップだった山梨県と、最下位の秋田県では、ちょうど2歳の開きがあった。また、女性トップの愛知県に対して、最下位の広島県は、2.7歳もの開きがあった。

また、雇用や所得、家庭環境といった、社会経済状況の格差も深刻になっている。厚生労働省が以前発表した国民健康・栄養調査によると、世帯収入が少ないほど、生鮮野菜の摂取量が少なく、その結果、厚生労働省が健康づくりの目安としている数値を大きく下回っている。さらに、アルバイトや派遣社員、契約社員など、いつ失業するかわからないといったような、精神的不安を感じると、うつ病などの病気になりやすく、また、贅沢病といわれている糖尿病も、コスパ重視で添加物の多い食生活が、密接に関わっていると言われている。

健康寿命を延ばして、医療や介護の負担を抑えるうえでも、格差解消の取組の必要性が指摘されている。



2019年7月17日掲載