あまり聞きなれない言葉であるが、「フレイル」という言葉を知っていますか?

「フレイル」は、日本老年医学会が2014年に提唱した概念のことで、英語の「Frailty(虚弱)」の日本語訳のこと。

厚生労働省によると、「フレイルとは、加齢とともに、心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱化が出現した状態であるが、一方で適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態像」としている。

簡単に言うと、健康な状態から要介護になる間の状態ということで、誰しもが通る道ではあるものの、しっかりとチェックをし、生活習慣を改善するなど予防措置をすることで、もとの健康状態に戻れる状態のことを言っている。

フレイルの概念

出典:厚生労働省 社会保障審議会介護保険部会(第58回)資料より


「フレイル」の傾向と予防

「フレイル」は、身体的要素、精神的・心理的要素、社会的要素の3つの側面で構成されていると言われている。

身体的要素には、筋力低下、低栄養、口腔機能低下や関節症などの運動器障害のことであり、精神的・心理的要素としては、MCI(軽度認知障害)、うつ、認知症などが挙げられる。社会的要素とは、独居や経済的な困窮などから引き起こされる閉じこもり、孤立、孤食といったことが挙げられている。

これら3つの要素は、それぞれが単独で出現するわけではなく、極めて連関性が高いと言われている。

「加齢などにより筋力や筋肉量が減少する」→「活動量が減る」→「エネルギー消費量が低下」→「食欲低下」→「食事の栄養摂取量が減り、低栄養状態」→「体重の減少・筋力や筋肉量が減少」→「活動量が減る」・・・といった具合で、この悪循環のことを「フレイル・サイクル」という。こうした悪循環が続くと、要介護状態に進んでしまうため、厚生労働省は、現在の自分の状態をチェックできるようなチェックシートを用意し、改善に努めている。「おいしいものが食べられなくなった」「疲れやすく何をするのも面倒だ」「体重が以前よりも減ってきた」などという傾向が出てきたら要チェックで、周囲の人も含めて、早急に改善に向けて取組まなくてはならない。


「フレイル」予防で重要な3つのポイントは、「栄養」、「身体活動」、「社会参加」である。「栄養」摂取のための食事は、活力の源なので、バランスの取れた食事を3食しっかりとることが大事で、同時に口腔ケアも忘れてはならないと言われている。ウォーキング・ストレッチなどの「身体活動」は、筋肉を維持するだけでなく、食欲や心の健康にも好影響を及ぼすものである。また、自分に合った趣味やボランティアなどの「社会参加」で外出することも有効とされている。

予防の3本柱の中でも「栄養」がもっとも重要であるにも関わらず、専門職の確保困難などの理由で取組が進展していないため、厚生労働省では、「都道府県と市町村栄養士等の協働による高齢者の健康支援の推進」に向けて、専門職(管理栄養士、歯科衛生士等)や配食事業者等の関与を促進し、口腔機能の向上と栄養状態の改善に向けた取組を強化している。


過度な自粛が「フレイル」を加速させることに

「フレイル」は、健康と要介護の中間の状態であるものの、適切なケアにより、もう一度、健康状態に戻ることが出来る状態であることから、いち早く、周りの人が状態を認識し、気づいてあげることが大切である。現在、コロナ禍で外出自粛を余儀なくされているものの、過度な自粛により、身体機能が低下し、人との交流が少なくなることにより、進行してしまう可能性が高いことから、新型コロナウイルスに関しては、適切な対応をし、過度に自粛をせず、正しく恐れ、対応していくことが肝要となる。



2021年7月2日掲載