脱水症とは、水分と塩分からなる体液が不足した状態のこと。体液は、高齢者でも体の約50%(小児は約70%、成人は約60%)を占めており、①酸素と栄養素を体内に運搬する、②体内の老廃物を尿や汗として体外に排出する、③発汗により体温を調整する、という3つの重要な働きを担っている。

 そのため、脱水症で体液が減少すると、それらの働きが阻害されるため必要な栄養が行き渡らず、老廃物が蓄積され、全身の様々な組織で症状が現れることとなる。

 自覚症状としては、口の渇きや体のだるさ、立ち眩みなどが多く、その他にも、皮膚や口唇、舌の乾燥、皮膚の弾力性低下、微熱などが起こり、さらに、食欲低下、脱力、意識障害、血圧低下、頻脈なども出現しやすい。



高齢者は脱水症に陥りやすい

高齢者は脱水症に陥りやすい

 脱水症を疑うサインには、①急激な体重減少、②体温上昇、③中枢神経の異常、④消化機能の異常、⑤神経・筋機能の異常、などがある。年齢を問わず誰でもなってしまう可能性のある脱水症だが、特に、高齢者が脱水症に陥りやすいのには、高齢者特有の理由がある。


1.体内水分量の減少

 加齢に伴い、食欲の減退や食べ物を飲み込む嚥下機能に障害が生じると、水分の摂取量が減ってくる。また、筋力の低下により、体液を多く蓄積する筋肉の量が落ちることも、体内の水分量が減ってしまう原因となる。


2.内臓機能の低下

 加齢とともに低下する内臓の働きも、脱水症を引き起こす要因。特に、体内の水分量をコントロールする腎臓の働きが低下すると、塩分濃度を適正に調節できなくなり、脱水症に陥るリスクが高まる。


3.のどの渇きに鈍感

 高齢者は、感覚機能が低下しているため、自分でのどが渇いていることに気づかないことがよくある。認知症の人は特にその傾向が強く、自分が飲み物を飲んだかどうかを忘れて、長時間水分を摂取しないという場合もある。さらに認知症の症状が進むと、飲み物という概念そのものを忘れてしまう可能性も考えられる。


4.病気や排泄障害による影響

 排尿が過剰になる病気、例えば、糖尿病の患者の場合、増えすぎた糖を排出しようと尿がたくさん排出されるため、体内の水分量が不足することにつながる。同様に、頻尿など、排尿の量が増えるような排泄障害があるケースでも、必要な水分まで体外に排出されてしまい、脱水症に陥りやすくなる。


5.薬を服用による影響

 高齢者は血圧が高くなる傾向にあり、日常的に血圧を下げる降圧薬を服用している人は、そのなかに、尿の排出を促して塩分を体外に出すために利尿作用を含んでいるものがあり、これも脱水症の一因になる。




脱水症の予防方法

脱水症の予防方法

 一般成人に比べ、高齢者の場合は、飲み物だけで水分を補うのは難しく、水分量の多い食事を心がけることが重要になる。


1.嚥下機能が正常な方は、食事以外にもお茶の時間を設け、口渇感が無くても定期的な飲水を生活習慣に取り込みこと。


2.高温・高湿度、強い日差しなどにより、熱中症が発生しやすい夏季は、より脱水症の危険性が高くなるので、周囲の者が注意を払い、水分を補給しやすい環境を作ってあげること。


3.部屋の湿度や温度を調整することにより、体の水分量が保たれるため、加湿器を使ったり、濡れタオルを干すなどの工夫をすること。


4.嚥下機能障害がある方の場合には、摂取するものにとろみを付けるなど工夫をし、スムーズな食事で水分を補給すること。


5.嚥下障害の強い方は、脱水症状の程度に応じて、早めに医療機関において点滴による水分補給が必要なので、早めの対処が必要。


6.入浴中や就寝中は、発汗が多めなので、入浴前後や就寝前、起床時などにも水分補給すること。


7.フルーツやゼリー、好きな飲み物で水分を取れるよう、高齢者が自発的に水分を補給する環境作りが必要。


 脱水症を予防するには、体に必要な水分を摂る必要があるが、高齢になって、 トイレ(移動や失禁など)の心配から、自分で水分量を控えてしまう場合もあるため 家族や介護の人が気を遣うことが最も重要となる。



2021年5月31日掲載