車イスを乗せられる「UDタクシー」。その特徴は?

UDタクシーとは「ユニバーサルデザインタクシー」の略。スロープや手すりなどを備え、足腰の弱い高齢者や車イスを利用する人が乗りやすいよう設計されている。福祉車両と違って健康な人でも乗車でき、ベビーカー利用の子供連れや妊娠中の人、大きな荷物を運ぶ人など、すべての人にやさしく、気軽に利用することができる。予約したり、街中で走行中の車両を呼びとめたりして乗車でき、運賃は一般のタクシーと同じ料金になっている。

 

国が定めた認定制度がある

「UD TAXI」左:UDレベル1/右:UDレベル2

国が定めたUDタクシーマークの車両表示マーク。認定基準レベル1とレベル2で星の数が違う(国土交通省資料)

国土交通省では「標準仕様のUDタクシー」という認定制度を設けている。車両の認定基準として、乗降口の幅や高さ、スロープの勾配、手すりの形状・配色、床の材質・形状、車いすスペースや室内座席について細かな基準を設け、これらを満たした車両をレベル1とし、認定基準よりさらに望ましいとする項目まで満たすとレベル2の評価が与えられる。

現在は、日産自動車にレベル1に認定された車両があるほか、トヨタ自動車からもレベル1に適合する新型車が発売された。国が認定したUDタクシーは、外見で車イスの人でも利用できることがわかるように、車体にステッカー等で「UDタクシーマーク」を車体に表示している。

 

東京五輪に向けて普及促進

東京五輪に向けて普及促進

東京都では、2020年の東京五輪・パラリンピックを見据えて、「環境性能の高いユニバーサルデザインタクシー等の導入補助事業」を開始した。自動車からのCO2排出量削減のため、電気自動車・プラグインハイブリッド自動車・ハイブリッド自動車で車イスのままで乗降できるUDタクシーと、電気自動車・プラグインハイブリッド自動車のタクシーの導入を補助。対象は、一般乗用旅客自動車運送事業者(福祉輸送事業限定事業者を除く)とし、2016年から2020年までの5年間実施する。

UDタクシーは福祉タクシーではなく、あくまで一般的なタクシーだ。乗務員は、利用者が車両に乗り降りするのはサポートできるが、自宅や施設の中まで移動させるといった介助はできず、そのために長時間駐車していると駐車違反になってしまうこともあるという。

 

ほかの都市でも広まるUDタクシー

トヨタ自動車の「JPNTAXI(ジャパンタクシー)」

名古屋市のUDタクシー試乗会で使われたトヨタ自動車の「JPNTAXI(ジャパンタクシー)」

UDタクシー導入の動きは、都内以外にも広まっている。そのひとつが、愛知県名古屋市。同市では、「人にやさしいまち名古屋」を目指し、UDタクシー導入に補助する取り組みがはじまった。2017年8月初旬、市の本庁舎前でUDタクシーの試乗会を開き、市長自らが車イスに乗ってUDタクシーを試乗。使われた車両は同年10月に発売されたトヨタの新型車で、ワゴン型だが低床フラットフロアで電動スライドドアが大きく開き、車イスに乗ったまま乗車できるようになっている。

名古屋市では、新規購入事業者に対して、UDタクシー1台にあたり20万円を補助する制度を創設。補助の申請は10月末にはじまったばかりで、これからUDタクシーが普及していく見通しとなる。

 

積極的に導入するタクシー会社

宮園タクシーで導入しているUDタクシー

宮園タクシーで導入しているUDタクシー

宮園自動車株式会社(東京都)は、都内主体を営業区域とする東京無線タクシー系のタクシー会社。タクシー・ハイヤー事業のほか、介護・福祉事業にも取り組み、福祉輸送や介護支援事業のグループ会社も展開している。タクシー事業で6年ほど前からUDタクシーを導入しはじめていたが、当時はまだUD(ユニバーサルデザイン)自体の認識が世の中に浸透していなかった。そこでまず、一般的なセダン車のタクシーに高齢者や障害者が安全に乗れるよう乗務員が「ユニバーサルドライバー研修」を受ける人材育成をはじめた。

ユニバーサルドライバー研修は一般財団法人全国福祉輸送サービス協会主体で行っており、専門家による講義や、車イスを使用した接遇・介助の実習など、利用者が心地よく過ごせるサービスについて学ぶことができる。宮園自動車では、現在450名いる乗務員のうち400名が研修受講者。また、同社ではUDタクシーによる営業を、研修を受けた者のみに限定している。

宮園自動車の主要営業所となる杉並営業所では、2017年11月現在、日産「NV200」7台、トヨタ「JPN TAXI(ジャパンタクシー)」4台のUDタクシーを導入し、今後も継続していく予定だ。どちらも国の認定基準を満たした車で、通常は一般タクシーとして営業し、車イスの人が乗るときは後部座席と助手席をたたんで車イス用のスペースを確保する。「NV200」は福祉車両に近く、スライド式のスロープや大型の手すりを標準装備。バックドアから車イスのままスロープを使って乗り込め、トールワゴン型なので車内スペースにゆとりがある。「JPNTAXI」も手すりなどの装備があり車イスのまま乗車できるが、通常のタクシー営業を意識して、内装や居住空間にこだわりが見える。

 

気軽に利用してもっと普及を

一般タクシーと同様の運賃で乗車できる次世代型のUDタクシー

一般タクシーと同様の運賃で乗車できる次世代型のUDタクシー。快適なのでどんどん利用したい

UDタクシーは普通のタクシーと変わらず流し営業をしているが、一般的なセダン車のタクシーに比べて利用したがらない人が多いという。その理由としては、「利用運賃が高いと勘違いしている」、「障がい者向け用と思われて遠慮される」などがある。タクシー乗務員は歩合給制であるため、利用者が少ないと売り上げが伸びず、これではUDタクシーで営業する乗務員が増えないという課題が出てくる。

UDタクシーはすべての人が乗車できる次世代型のタクシーであり、高齢者や障がい者などに限定していない。初乗り410円(都内)から使えるUDタクシーを、普及度を高めるためにもどんどん気軽に利用してほしい。

 

2017年11月17日掲載