介護保険制度は、2000年に施行されてから3年に1度を目安に改正が行われており、2017年に改定が行われた。これは1018年から実施されることになるが、現在の日本は年金や医療、介護にかかる費用負担が増えており、団塊の世代が75歳以上となる2025年には、さらなる増加が予想される。これらの負担を抑えつつ、介護保険制度を持続可能にしていくことが、今回の改定のポイントになる。
すでに改定されることが決っているものとしては、介護保険サービス利用者のうち「特に所得の高い層」は自己負担額が2割から3割に引き上げになることや、「高額介護サービス費」の月々の上限額が4万4400円に変更されたこと。そして、福祉用具の貸与価格が見直されたことで、適正価格でサービスが受けられようになったことが挙げられる。
このほか今回は、高齢者の自立支援・重度化防止を重視したさまざまな法改定が行われている。また、自治体の保険者機能の強化を主な目的とし、頑張っている自治体を評価したり、法律を整備するなどしている。さらに、新たな介護保険施設の創設や、地域共生社会を目指す共生型サービスなどが加えられたことも大きな変化だろう。
自立支援・重度化防止に積極的に取り組む自治体を評価
2018年度の予算案には、介護険制度による「高齢者の自立支援・重度化防止」の取り組みに対する財源として200億円が計上されている。これは、高齢者の自立支援を積極的に行い、成果をあげている自治体に対して、国が新たな「交付金」を支払うための財源。つまり、頑張っている自治体を評価していこうという考えによる。
交付の基準として、市町村向けに59項目、都道府県向けに20項目の評価指標案が厚生労働省から提示されている。そのうちのいくつかの項目を挙げると、例えば、計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Act)といったPDCAサイクルを活用した自治体の保険者機能強化の体制作りの指標として、「地域包括ケア『見える化』システムを活用して他の保険者と比較するなど当該地域の介護保険事業の特徴を把握しているか」、「日常生活県域ごとの65歳以上の人口を把握しているか」、「2025年度に向けて自立支援・重度化防止に対する施策目標やその実現のための重点施策を決定しているか」、などの項目が盛り込まれている。しかし、交付を受けるための基準項目は全体的に多く、クリアするには若干ハードルが高すぎるような印象を受ける。
自治体の保険者機能を強化するための法制度
今回の改定では、各自治体が保険者機能をより効率的に発揮できる環境作りを行っている。そのために国は、すべての自治体が自立支援・重度化防止対策に取り組む流れを、以下のように制度化した。
まず自治体は、国による分析支援を受けたデータに基づいて、地域の課題を探る。そして導き出した取り組み内容や目標を計画化したら、その取り組みを行なう。その実績が適切な指標によって評価され、インセンティブ(目標達成への意欲を高める刺激策)が付与されるというのが、この制度の流れとなっている。これを取り入れることで、自治体の保険者機能が強化されていくことを目的としているわけだ。
国としては、基本的に高齢者ができる限り在宅でケアを受けられることが望ましく、そのためは自立支援と、要介護になっても重度化しないことが重要となる。そのための自治体の保険者機能の強化なのだ。
新設される介護保険施設「介護医療院」
高齢化にともない医療・介護ニーズはさらなる増加が見込まれるが、それに対応するために改定で新たに創設されたのが「介護医療院」という介護保険施設だ。この施設は、「日常的な医学管理」や「看取り・ターミナル機能」などの医療機能と、「生活施設」としての機能を兼ね備えたもの。病院ではないが医療も提供してくれる介護施設で、要介護者が長期療養するための医療と、日常生活を送るための介護を一体的に受けられようになっている。
施設を開設できるのは、地方公共団体、医療法人、社会福祉法人の非営利法人など。病院または診療所から介護医療院に転換した場合は、転換前の名称を引き続き使用することができる。
この介護医療院は、現在の「介護療養型医療施設(介護型療養病床)」の受け皿としても注目されている。介護療養型医療施設は、要介護の高齢者が長期療養を必要とするときに利用する介護施設。医療的なケアやリハビリなどが受けられ、ほとんどが医療法人による運営となっている。しかし、医療を必要としない入所者の利用が多くを占めることが問題視され、廃止されることが決まった。2017年度いっぱいで廃止されることになっていたが、経過措置期間として6年間延長され、廃止期限は平成35年度末までとなっている。
新たに誕生した「共生型サービス」
改定で、介護保険と障害福祉の制度に新たに「共生型サービス」というものが創設されている。これは、介護保険事業所や障害福祉事業所が「共生型サービス」の指定を受けていれば、同一事業所で高齢者と障害者がサービスを受けることができるというものだ。
現在の福祉の仕組みは、高齢者は介護サービス、障害者は障害福祉サービスなど、対象者によって相談窓口やサービスが分かれている。介護福祉サービスを利用している障害者は、65歳を超えると介護保険サービスの利用が優先されるため、通い慣れた障害福祉事業所が利用できなくなり、事業所を変えなくてはいけなかった。また、現行では、介護保険事業所や障害福祉事業所がサービスを提供するには、それぞれの指定基準を満している必要があった。
そういった、介護サービスと障害福祉サービスの垣根を取り払うのが「共生型サービス」だ。これにより、高齢者がサービスを受けられる事業所を増すことができ、障害者は65歳以降になっても通い慣れた事業所を利用できるようになる。なお、対象のサービスは、デイサービス、ショートステイ、ホームヘルプの3類型とされている。
2018年3月12日掲載