2018年度の介護保険の改定で、介護報酬は「+0.54%」に引き上げとなった。介護報酬がプラス改定になったのは、2012年度改定以来6年ぶりになる。政府が掲げる「介護離職ゼロ」を進めたかたちになるが、実際は引き下げになったサービスと引き上げられたサービスのトータルが+0.54%であり、すべての介護報酬がアップしたというわけではないようだ。
また、この改定により介護関連の施設や事業所の収入は増えるが、介護保険料や自治体などの出費は増えることになった。介護報酬は現在、介護サービスを利用者している人や今後利用する人、そして介護保険を支払っている人に関わってくるもの。それが、どのように変わったのかを知っておこう。
国は在宅によるケアを推進
まず、今回の改正で国が重視しているポイントは、高齢者の自立支援と要介護の人が重度化することを防いでいくこと。そして、地域と共生できる社会を作っていくことが挙げられている。具体的には、施設での介護を必要とする高齢者を在宅復帰できるように促し、できる限り在宅でケアできる社会の仕組みを作ろうという考えだ。
この方針を踏まえたさまざまな改定のうち、注目されているのが、通所介護に「アウトカム評価」が導入されることと、訪問介護の生活援助の報酬を引き下げることだ。これらがどのように改定されたのかを見ていこう。
通所介護に導入されるアウトカム評価とは?
アウトカムとは「結果」や「成果」という意味。つまり通所介護のアウトカム評価とは、事業所の取り組みの結果や成果を評価するということだ。高齢者が通所介護を利用して、評価期間中に後述するようなよい成果をあげたら、その通所介護先の事業所は利用者の報酬に3単位から6単位を加算することができることになった。
では、通所介護の成果・結果をどのように判断するのだろう。その指標として新設されたのが「ADL維持等加算」というものだ。ADLとは「Activities of Daily Living(アクティビティーズ・オブ・デイリー・リビング)」の略で、基本的な日常生活活動のことを指す。高齢者の身体能力や日常生活レベルを図る指標として用いられており、日常生活を送る動作ができなくなったり難しくなったりすると、「ADLが低下した」とみなされる。
ADLの状態を判定する指標となるのが「Barthel Index(バーセル・インデックス)」というもの。これは、食事、車椅子からベッドへの移動、整容、トイレ動作、入浴、歩行、階段昇降、着替え、排便コントロール、排尿コントロールの計10項目を5点刻みで点数化し、その合計点を100点満点として評価する計算式のようなもので、点数が高いほど基本的な生活動作ができると判断される。この点数からADLが維持されているかどうかを判断し、よい成果をあげている通所介護の施設は評価して、報酬をアップさせようという取り組みがアウトカム評価だ。
通所介護は1時間単位に細分化
また、通所介護ではこれまで2時間単位でサービスを提供してきたが、今後は1時間単位に時間区分が細分化されることになった。これに伴い、1時間ごとに要介護度に合わせた基本報酬の単価が設定された。改定前は、たとえ30分の利用であっても2時間分のサービス利用料を支払わなくてはいけなかったが、1時間単位になったことで利用者の無駄なコストを減らせるように改善されている。
具体例としては、要介護3の人が通常規模型の通所介護を利用すると、現行では「7時間以上9時間未満」で898単位だが、改定後は「7時間以上8時間未満」なら883単位に下がり、「8時間以上9時間未満」なら898単位となる。
訪問介護は身体介護を明確化
訪問介護には「身体介護」と「生活援助」があるが、今回の改定ではこの違いを明確化することになった。身体介護として行うことは「生活自立支援のための見守り的援助」とし、利用者のADL向上のために安全を確保し、いつでも介助できる状態を保ちながら見守ることとしている。そして生活援助は、掃除や洗濯、食事の用意や見守りなど、利用者の体に直接触れない援助を対象とし、その援助はあくまで本人に対してのみ行われ、本人以外の家事代行は含まれないこととしている。
また、身体介護と生活介護で報酬にもメリハリをつけている。例えば、身体介護中心型の訪問介護サービスを「30分以上1時間未満」で利用した場合、現行は388単位だが、改定後は394単位に報酬が引き上げられる。これに対して、生活援助中心型の訪問介護サービスは、「20分以上45分未満」で利用すると現行では183単位のものが、181単位に引き下げとなる。つまり、生活介護では介護事業者の報酬がアップし、生活援助では利用者のコストが下がるという改定内容になっている。
介護職員の処遇も改善されていく?
介護サービスを持続させるためには、介護職員の処遇を改善させていくことも大きな課題となっている。介護福祉士の平均勤続年数は6年と言われ、10年働き続ける人はほんのわずかとされている。職員の給与がアップして処遇がよくなれば離職率が低くなり、人手不足解消の可能性が高まっていく。それに伴って介護業界に参入する経営者が多くなり、増加する高齢者の受け入れ施設が充実することが見込まれる。
国はその足がかりとして、勤続10年以上の介護福祉士には月8万円相当の処遇改善を行なうことを閣議決定した。年間およそ100万円のアップになるが、職員個人に直接支給されるわけではなく、介護事業所に加算されるため、どう振り分けるかは事業主次第となる。また、国がその財源をどうやって確保するのかという疑問も残る。この処遇改善が実施されるのは2019年10月とまだ先のことなので、実際に介護報酬の料率がどう決定されるのか見守っていきたい。
2018年4月16日掲載