戦後の第一次ベビーブームに生まれた「団塊の世代」は、日本人口の約800万人を占める。2025年度には、この世代が75歳以上になる。年を重ねても、趣味を楽しんだり仕事で活躍したり、いきいきと過ごす方は多いが、高齢者の増加で医療や介護の需要はますます増える見通しとなるだろう。

厚生労働省ではこの年度をめどに、「地域包括ケアシステム」を構築することを進めることにした。「地域包括ケアシステム」とは、住まい・医療・介護・予防・生活支援をまとめて提供し、介護が必要になっても住み慣れた地域で人生の最後まで自分らしく暮らせるようにできるしくみのこと。すでに取り組みを始めている自治体もある。その実態を紐解いてみよう。

 

地域包括ケアシステムとは?

今後、まずます高齢者が増加することに備え、医療や介護といったケアのあり方を見直し、地域で高齢者を支える体系として生まれたのが「地域包括ケアシステム」。各市町村の自治体に支援センターなどを設置し、福祉、医療、介護といった他分野による支援とサービスで高齢者を支えていこうという取り組みだ。

国ではなく各市町村の自治体が高齢者のケアを引き継いでいくわけだが、これにはメリットがある。介護が必要になった高齢者でも住み慣れた地域で暮らしていけ、その地域の特性を生かしたケアシステムが構築できるからだ。また、社会福祉士による相談業務、保健師の医療、ケアマネージャーの介護など、今までばらばらだった機関が協力しあい、総合的な支援とサービスが受けられるという利点もある。

 

既存の地域福祉活動に専門職との連携を追加する松本市

長野県松本市ではもともと、福祉機関による取り組みとして、近隣住民で高齢者を見守り、ゴミ出しや清掃、雪かきなどの助け合いが行われていた。そこで、新たに地域包括ケアシステムの仕組みを作るのではなく、すでに実施している地域福祉や地域づくりの活動に、「医療と介護の専門職が連携した在宅サービスを提供」することと、「向こう三軒両隣のような地域の支え合い」という要素を加えた。

市内の35地区に「地域まちづくりセンター」を設置し、介護従事者、住民、医療、行政関係者の顔が見える関係を構築。住民が介護について困りごとがあれば、いつ、だれが、どのように支援するか話し合う「地域ケア会議」を行い、みんなで情報共有し、解決策やその役割分担などを話し合う。

例えば、見守りが必要な認知症の人がいれば、家族、ケアマネージャー、地域包括支援センターの職員で相談しながら情報資料を作成し、町内会長やコンビニエンスストアなどに地域見守りの依頼を行う「高齢者見守り隊ネットワーク」を実施。高齢者が気軽に集まれる場をつくる取り組みや、金銭管理ができない高齢者の支援のしかたなど、地域ごとにケア会議を開いて対処していく。

 

埼玉県ではモデルとなる4市町から今後の手法を探す

埼玉県では市町村単位ではなく、県主導で4市町を選定し、地域包括ケアシステムのモデル事業を実施。2016年度から新座市、蕨市、羽生市、川島町がモデル事業に参加し、「自立促進」、「介護予防」、「生活支援」の3つを軸に、それぞれ地域の特性を生かした支援に取り組んでいる。

「自立促進」として、地域ケア会議で高齢者が自立するためのケアプランを作成。「介護予防」のために、高齢者が歩いて通える場所に体操教室を設置。「生活支援」では調理や掃除などの日常生活を支援する。これら3つの事業が連携し、高齢者が元気に過ごし、住民同士で助け合う地域づくりを目指していくが、体制が整いやすいよう、県がアドバイザーを派遣するなど、人材の発掘・養成への支援を行っている。

県は、数年かけてモデル事業の結果を検証し、取り組み方を確立。平成31年度には全市町村で地域包括ケアシステムを構築することを目標としている。

 

地域包括ケアシステムの街づくりを目指す「Fujisawa STT」

神奈川県藤沢市の「Fujisawa SST(サスティナブル・スマートタウン)」は、パナソニックが培ってきた住居事業や家電事業のノウハウを取り入れた先進的な街。太陽光発電を取り入れた住宅や商業施設を主体に、情報ネットワーク、コミュニティ、移動手段、セキュリティや健康面までトータルに考えた街を構築している。3世代が同じ地域に長く暮らせることを目指し、街の中には介護サービス付きの高齢者向け住宅や短期宿泊もできる特別養護老人ホームもある。

これら住宅や特養施設がある建物に、保育所や学童保育、学習塾や交流ホールなども併設することで、世代の垣根を越えて住民同士が交流する場と機会を設けている。子どもや介護が必要な人の送り迎えが、同じ場所であるということもメリットだろう。

今後はICT(情報通信技術)を活用し、病院やクリニック、薬局、高齢者施設、看護ステーションなどと連携を図り、住人の健康関連情報を共有サーバーで得てサービスを提供することも検討。国が推進する「地域包括ケアシステム」をいち早く取り入れ、多様な角度から住民の暮らしをサポートする、今までにない街づくりプロジェクトが進んでいる。

 

2017年7月14日掲載