認知症などの高齢者には、家の外に出て徘徊行動をとる人がいる。そのまま行方不明になる、あるいは転倒によるケガや事故にあうなど、さまざまな事態が危惧される。徘徊が見られる人が一人で出かけてしまった場合、可能な限り早く発見するためのアイテムとして、GPS機能のついた介護用具が販売されている。
GPS端末は便利なアイテムだが、徘徊する人にいかにして身につけてもらうかが問題だ。それを解消するため、各メーカーが工夫をこらした製品を開発している。また、徘徊行動をとる人が外出しようとするのを知らせる製品も同様に開発されている。
GPSで徘徊する人をどう見つけ出す?
GPS端末は、徘徊する人に身につけてもらい、行方不明になった場合にパソコンやスマホなどで位置情報を確認して見つけ出すことができる。専用アプリや専用サイトなど、メーカーごとに方法は異なるが、いずれも地図でGPS端末の位置を確認することができる。また、自宅など設定エリアからどれくらい離れたらメールで通知するなど、細かな設定ができたりもする。
GPS端末はバッグに入れたり、杖に吊るしたりして持ち歩いてもらうのだが、認知症の高齢者はそれが何かわからずに捨ててしまうことがある。その対策として、GPS端末を入れられるシューズが開発されている。シューズ内であれば気づかれず、確実にGPS端末を身につけてもらえるというわけだ。
GPS端末のほかに、徘徊する人が家の外に出ることを知らせる製品も開発されている。外出を知らせ、もし外出して行方がわからなくなったらGPSで探すという2段階で、徘徊によるトラブルに対応できるように考えられている。
GPSとチャイムで徘徊対策
[上段]右から「さくらんぼチャイム」のチャイム、感知器、タグ [下右]GPSとタグが入れられる「GPシューズコスモス」 [下中]GPS端末「GPキューブ」 [下左]GPS端末の位置はグーグル社のマップに表示。端末の最新位置や最大9件まで過去の位置情報の履歴がわかる/(株式会社チェリー・BPM)
株式会社チェリー・BPMは、いち早くGPS端末で徘徊する人を検索する製品を手がけた企業。重さ39gの超小型GPS端末「GPキューブ」を開発し、GPS端末を身につけた人が移動するとスマホにダウンロードした専用アプリにプッシュ通知が届き、位置情報を確認できるシステムを構築した。自宅から一定の距離を離れたり、電池残量が減るとアプリにプッシュ通知がくるなど細かな機能を搭載している。この「GPキューブ」は日本全国で位置確認ができるようになっている。
同社ではGPS端末を入れられる専用の「GPシューズコスモス」も製造し、徘徊する人が出かける際に、端末を確実に身につける方法を考案した。なお、シューズは写真のブラックと、パールベージュの2色がある(パールベージュは女性向けの小さいサイズのみ)。
しかし、介護している人が就眠しているときは、スマホのプッシュ通知に気づけないことがある。そこで、もっと大きな音で徘徊者が出かけたことを知らせてほしいというユーザーの声を受けて、同社では徘徊感知器「さくらんぼチャイム」も開発している。
これはタグと感知器とチャイムがセットになったもの。感知器を玄関などに設置しておき、シューズの中など近くに置いてあるタグがそこから離れると、室内に設置したチャイムが鳴る。タグは同社の「GPシューズコスモス」に入れられるほか、杖などさまざまな用具にも取り付けられる。GPS端末とタグを併用するとより安心だろう。
ドコモの位置情報サービスを利用したGPSも
[右]専用サイトで徘徊者の位置を地図上に表示 [中]愛用のシューズに収めることができるGPS端末 [左]端末を実装した「魔法の靴(GPSインソールシューズ)」/(株式会社介護用品愛ショップ)
GPSを身につけさせていても、徘徊する人が建物に入ってしまうと位置情報にズレが生じることがある。その誤差を少なくしたのが、株式会社介護用品愛ショップが手がける「魔法の靴(GPSインソールシューズ)」だ。この商品はシューズ内にGPS端末を収納するものだが、徘徊者を検索するシステムにNTTドコモの簡単位置情報サービスを利用していることが特徴。
徘徊者の位置をほぼ誤差のないピンポイントで特定することを可能とし、位置検索はパソコンやスマホから専用サイトにログインすることで行える。
GPS端末は充電式で、だいたい4日に1回の充電が必要。電池残量が減ると、30%、15%、0%の3段階でメールの通知が届く。使い方や故障の相談などができるサポート窓口のほかに、「NPO法人ささえ愛」で販売後の端末の運用管理を行うなど、ケアも行き届いている。
また、同社では、シューズの右足にビーコンを搭載したモデルも販売している。これは専用のレシーバーを玄関などに設置し、ビーコンが近づくとメールが届き、利用者が外出することを知らせるというしくみになっている。
自分の好きなシューズを加工することも可能
GPS端末を収納するシューズは、数種の既製品を加工したものが多いため、デザインやカラー、形状がほぼ限定されてしまう。そのため、徘徊者がその靴を好まず、違うシューズで外に出てしまうことある。徘徊者によっては、ブランド品やスニーカーなどの好みシューズがあるからだ。
そこで、前述の株式会社介護用品愛ショップでは、徘徊者が普段愛用しているシューズを確認し、それと同じ新品のシューズにGPS端末を収納できるように加工することも行っている。一般的なシューズにとどまらず、長靴やサンダルなど、幅広いシューズの加工まで引き受けている。
マップの見やすさも選択肢のひとつ
[右]見やすいゼンリンの地図を利用してGPSの位置を確認 [中]小型のGPS端末「パルモどっち君」 [左]どんなシューズを利用するか相談にものってくれる
株式会社iseedのGPS端末「パルモ どっち君」は加速度センサーを搭載。身につけた人が動き出すことで起きる振動を感知すると、最大5人に対して緊急メールを通知する徘徊感知機能を備えている。GPS機能はNTTドコモの通信エリアを利用しており、全国的に利用できることも大きな特徴だろう。GPSの位置情報は、専用サイトにログインすることで確認できる。
また、自宅から一定のエリアを離れると同様にメール通知を発信し、時間を決めてタイマーで通知したり、電池が切れそうになると通知するなど豊富なメール通知機能を搭載している。国内最大手の地図情報会社「ゼンリン」のマップに位置情報が表示されるため、見やすいという点もメリットだろう。これらの機能を使いこなすことは難しく思われるが、画面写真で解説するなど、わかりやすいマニュアルを添えている。
また、徘徊者が靴を好まないケースを考慮して、自分の好きなシューズにGPS端末を収納できるよう加工をすることも相談にのってくれる。
2017年9月20日掲載