徘徊高齢者の捜索にQRコードが続々と導入

認知症などで高齢者が徘徊した場合、保護されても身元がわからず、家族と連絡が取れるまで時間がかかってしまうことがある。そんな場合に備えて、地域包括ケアシステムの一環として、自治体が行方不明になった高齢者を探すネットワーク作りが進んでいるという話題はすでに紹介した。しかし、徘徊者が他の市町村に移動してしまうと、探しきれないという問題があった。

また、保護された徘徊者が病院に運ばれた場合も、処置方法の判断に時間がかかることもある。身元や持病、既往症といった情報がわかれば、家族への連絡に加え医療措置も速やかに行えるようになる。

そういった問題を解消するために、QRコードで身元確認できる仕組みが広まっている。これは、身に着けたラベルやシールに記されたQRコードをスマホなどで読み取ることで、当人の身元や対処法がわかるというもの。すでに各自治体や介護施設などでの導入が進み、在宅介護をしている人にも配布されている。QRコードは電子機器と違って破損の心配が少なく、安価で取り入れられることもメリットだ。それでは各企業が開発した、さまざまなQRコードの特徴を見比べてみよう。

 

ネット上の伝言板でやりとりする「どこシル伝言板」

ネット上の伝言板でやりとりする「どこシル伝言板」

ラベルやシールや衣類や持ち物に付けておく。QRコードとともに市町村名が入っているので居住地がわかりやすい

 

みらい町内会(東京都世田谷区)では、「どこシル伝言板」というQRコードを使った身元照会システムを企画・制作した。この伝言板では、ラベルやシールに表示されたQRコードをスマホなどで読み取ってネット上の専用伝言板にアクセスし、そこで家族とやり取りができる仕組みになっている。QRコードを身に着けている本人の個人情報はいっさい開示されないが、「耳が遠い」、「糖尿病」といった症状は見ることができる。

行方不明者を発見した人が当人のQRコードを読み込んで伝言板にアクセスすると、そこで開示されている情報を確認することができる。そして発見者は伝言板に、発見場所や現在の居場所、本人の健康状態などを入力して家族に状況を伝えられる。発見者と家族のやりとりは伝言板を通じて行われるため、電話番号やメールアドレスなどの個人情報を伝える必要はない。

また、QRコードは読み取られた段階で家族に通知メールが届き、発見されたことがわかるようにもなっている。さらに、通知先は自治体の担当者に加え、家族や介護者など事前登録した最大3カ所までとなっている。掲示板の閲覧にはアプリのダウンロードなどは必要がなく、インターネットにアクセスするだけで容易に利用可能だ。

この「どこシル伝言板」のメリットは、発見者と保護者が直接やりとりできることだろう。もしも行方不明者を発見・保護したのが夜間など自治体の対応時間外だった場合は、身元照会に時間がかかり、家族への連絡が遅くなってしまうだけでなく、本人の負担が大きくなるばかりだ。しかし、このシステムなら、行方不明者を発見してから引き取れられるまでの流れが速やかに行える。2018年2月現在、「どこシル伝言板」は18の自治体に導入されており、今年度中には25市町村まで増える見通しだ。今後は認知症の高齢者をはじめ、障がい児や子供など、幅広い活用が期待される。

 

QRコードシステムの導入例は?

QRコードシステムの導入例は?

こういったQRコードを利用した身元照会システムは、導入した自治体ごとに異なる名称になっていることがある。例えば、前述の「どこシル伝言板」は、静岡県三島市では「見守りシール」という呼び方で広めている。

もともと同市では、認知症者が行方不明になった場合はまず保護者が警察に連絡を入れ、その情報が市にも届いて、同報無線で住民に行方不明者がいることを知らせていた。しかし、この放送の回数が年々増えていくことを実感した市では、よりよい捜索方法を模索していたが、そこで見つけたのが「どこシル伝言板」だった。自治体が間に入らず、すみやかにQRコードが読み取られたという情報が保護者に届くこと。そして、基本的に利用者同士が匿名でやりとりできることが導入の理由だという。

同市の場合は、在宅で生活している40歳以上の市民で、認知症などにより行方不明になる可能性がある人を対象に、市章とQRコードが印刷された「見守りシール」を申請者1名につき30枚配布している。申請者は本人または4親等以内の家族で、費用は無料だ。2017年10月から導入を始めたところ、介護している家族がQRコードの使い方がわからないというケースが多かったが、役所の窓口でネット上の「どこシル伝言板」に表示する情報内容の相談に乗ったり、入力の手伝いをするなどのサポートも行っている。

 

肌に貼れる「おかえりシール」

肌に貼れる「おかえりシール」

やわらかくて肌にやさしいシールは、手足や首など肌に直接貼れる。もちろん衣類や持ち物にも使用できる

徘徊が心配な高齢者の衣類や持ち物にQRコードを取り付けても、本人がそれを身に着けずに外出してしまうことがある。そこで、実生イーライフ(奈良県橿原市)では、肌に貼り着ける「おかえりシール」を開発した。絆創膏のように肌に貼れるシールで、そのまま普通に生活しても1週間くらいは剥がれない。また、絆創膏よりも薄い素材にして貼り付けたときのストレスを減らすなど、利用者の使い心地にも配慮している。

まず保護者は、発行されているQRコードを読み込んで専用サイトにアクセスし、保護者や自治体、施設などの連絡先と、利用者本人の基本データなど開示したい事項を入力しておく。シールを貼り付けた人が保護されたとき、QRコードを読み込めば専用サイトでそのデータを確認することができるという仕組みだ。保護されたときの対応方法も入力しておけば開示され、例えば、家族が遠方に暮らしていて行方不明者を引き取りに行くのが難しければ、「発見した場合はケアマネージャーに連絡してほしい」といった希望を事前に入力しておける。なお、利用者側の個人情報は開示されることはない。

QRコードの登録内容は、後から変更することができる。この「おかえりシール」は2017年から自治体での導入が始まり、すでに奈良県明日香村などが導入している。他の自治体からの問い合わせも多く、これからの広まりが期待される。

 

爪に貼って使う「爪Q(ツメ・キュー)シール」

爪に貼って使う「爪Q(ツメ・キュー)シール」

シールのサイズは手足の爪に収まるほど小さい。足の爪の方が目につきにくく、あまり気にならずに貼り続けられるという

オレンジリンクス(埼玉県入間市)では、爪に貼る「爪Qシール」を開発。ネイルシールのような素材を使ったもので、爪に貼ったまま日常生活を送っても2週間ほどもち、入浴しても剥がれない。このシールは自治体や介護施設から在宅介護の人を対象に配布しており、すでに埼玉県入間市、北海道夕張郡などが導入している。

QRコードに入力されている情報は、基本的に自治体名や施設名と、その連絡先のみ。QRコードにはあらかじめIDナンバーが登録されており、自治体や施設のほうで、その番号が誰に割り振られているかを把握している。身元不明者を保護した際に、QRコードの情報を読み取って連絡すれば、導入した自治体もしくは施設ではそれが誰なのか判別できるようになっている。

「爪Qシール」には通常のシールのほかに、花柄などを散らしたジェルネイルのようなタイプもある。この花柄タイプは、介護施設などから配布の希望があり、認知症の高齢者女性に利用してもらったところ、「可愛らしいデザインに表情が和らぎ、喜んでもらえた」といった声があったという。オレンジリンクスでは、近い将来、コールセンターを設けて個人向けに幅広く使ってもらうことを視野に入れている。

 

2018年3月12日掲載