どの事業主も、安定した生産性やサービスを提供するために、職員には長く勤めていてほしいもの。特に、常に人材不足と言われる介護サービスにおいては、離職率の低下は解消すべき喫緊の課題だろう。職員の処遇改善が進められているが、そういった離職率を減らす取り組みをする事業主を対象とした、「職場定着支援助成金」というものがある。職員の雇用管理制度を改善することへの助成だが、介護事業主に対しては、福祉機器の導入や賃金制度の整備も助成対象になっている。

「職場定着支援助成金」の種類は、「雇用管理制度助成コース」、「介護福祉機器助成コース」、「介護労働者雇用管理制度助成コース」の3つがある。2017年4月に改定され、助成金の名称が若干変わり、助成額も見直されている。ここでは、改定後の内容について触れていく。

 

職場に新たな制度を整備するなら「雇用管理制度助成コース」

事業主が新しく次のような雇用管理制度を導入・実施した場合に、1制度につき10万円が助成される。その制度は、「評価・処遇制度」、「研修制度」、「健康づくり制度」、「メンター制度」、「短時間正社員制度」。ただし、短時間正社員制度だけは保育事業主のみが対象なので、ここでの説明は割愛する。

これらの制度を設けたことで、職員の賃金が上がり、実際に離職率が低下すると、目標達成助成として57万円(生産性要件を満たした場合は72万円)が、達成したときの1回のみ支給される。

“目標達成”は、助成金を申請する際に作成した計画書で、目標として立てた離職率の低下を実際に達成したかどうか。“生産性”は定められた計算式によって数値を算出し、それが規定のパーセント以上伸びていれば、生産性要件を“満たしている”と認められ、助成を割り増しする。後で紹介する、ほかの助成コースもこれらは同様である。

制度について説明していくと、まず「評価・待遇制度」とは、評価制度を構築し、昇進・昇格基準を決めたり、通勤や居住などの手当や賞与制度などを設けること。「研修制度」は、10時間以上の研修を取り入れ、仕事に必要な知識や能力を高める取り組みで、研修費用や交通費などはすべて事業主が負担する。そして、「健康づくり制度」は、人間ドッグ受診や生活習慣病予防検診を補助するなど、法定の健康診断以外を受信する制度。

「メンター制度」については、まず「メンター」が何かから説明したい。メンターとは、メンタリングをする人のことで、人材の育成や指導する相談役のようなもの。育成される側はメンティと呼ばれ、メンターに悩みや疑問を相談し、それを解消していくことで人材の育成を支援する。社内のつながりや、メンタリティを大切にする取り組みだ。メンターとなるには研修等の受講が必要で、その費用は事業主が全額負担する。

事業主がこれらの制度をどのように取り入れるかという例としては、これまで事業主がなんとなく決めていた賃金をキャリアパスに応じた賃金として示し、職員の士気を高める。資格手当を整備して職員のキャリアアップを促す。新人職員に対して研修を行ったり、早期離職を防ぐために相談できる人材や環境を整備するなどが考えられるだろう。

 

介護事業主を対象とした「介護福祉機器助成コース」

介護の職場では、体に負担のかかる業務が多いが、介護福祉機器があれば負担を減らすことができる。その機器の導入・運用費用を助成してくれる制度もある。支給額は、介護福祉機器の導入と運用にかかった費用額の25/100相当(150万円を超える場合は150万円)。

支給を受けた介護事業主が機器を導入した後、1年経過した時点で離職率の低下が図られた場合は、別途、目標達成助成が支給される。その額は、介護福祉機器の導入・運用にかかった費用の20/100相当(生産性要件を満たした事業主は35/100相当、その額が150万円をこえる場合は150万円)。

つまり、機器導入と目標達成の両方を満たしていれば、上限300万円まで助成を受けることができる。助成対象となる介護福祉機器は、移動・昇降用リフト、自動車用車いすリフト、エアーマット、特殊浴槽、ストレッチャーの5項目。なお、自動排泄処理機や車いす体重計は助成対象外となる。

 

賃金を見直して職員の定着につなげる「介護労働者雇用管理制度助成コース」

介護事業主は、職員の職場定着のために、賃金制度を整備することも助成対象になっている。職務、職責、職能、資格、勤続年数等に応じて階層的に定めるものの整備を行った場合、制度整備助成として50万円が支給される。

そして、賃金制度の適切な運用を経て、職員の離職率に関する目標を達成していれば、計画期間終了後1年経過後に、目標達成助成(第1回)57万円(生産性要件を満たした場合は72万円)、終了3年経過後に目標達成助成(第2回)85.5万円(生産性要件を満たした場合は108万円)が支給される。

介護事業者がこれらの助成制度を利用し、介護職員の待遇が改善され、安定した人材の確保につながっていくことを願う。

 

2017年7月14日掲載