国が掲げる「一億総活躍社会」の実現という政策のなかに、介護離職ゼロを目指す取り組みがある。これは介護と仕事を両立しやすい職場環境の改善を図り、「職場定着」を促すものだが、そもそもその前に、介護サービスを提供する人材が必要だ。介護が必要な高齢者は増え続ける一方で、介護の職場では常に人手不足に悩まされている。介護サービスを提供する場にも、「職場定着」の措置が必要なのだ。

そこで国は、介護サービス事業者に対して、職員が定着しやすい環境整備への支援を強化。介護職員の不足は以前から問題視されてきたが、賃金アップや子育てしながら働ける環境を整えることで、人材確保につなげることが狙いだ。

 

経験や資格を考慮してキャリアアップの仕組みを構築

介護職員の待遇改善のひとつが、職員一人当たりの賃金を月額1万円相当増やすために、「介護報酬」を引き上げること。雇用管理、職場改善のためキャリアアップの制度を導入している事業所に対して適用される。介護報酬とは、介護事業者が利用者に介護サービスを提供したとき、その対価として支払われるもの。通常、介護報酬の改定は3年に1度で、次回は2018年に行なう予定だが、今回は「一億総活躍社会」の政策に基づき、臨時で改定された。

慢性的な人材不足のなかで働く介護職員は、職員が利用者の一人一人にゆっくり接したくても、3度の食事、排泄、入浴の介助、見回りや夜勤、コールによる呼び出しの対応など、たくさんの業務に追われてしまう。体に負担のかかる業務も多く、労働に見合わない賃金の低さもあり、離職者が増えてさらに人材不足に陥る悪循環が指摘されていた。

介護の職場で働くには、思いやりやいたわりなど、献身的な面も必要だろう。しかし、頑張ったことへの対価がなければ、人はモチベーションが保てないものだ。離職の要因のひとつである「低賃金」を改善するため、これからは経験年数や資格、職場での評価に応じて昇給する仕組みが取り入れやすくなった。

 

人材確保のためにさまざまな取り組みも

介護を担う人材を、シルバー層や介護の資格を取得中の人などから確保しようという案もある。例えば、ボランティアセンターやシルバー人材センターを通じて、介護に関心のある中高年に対し、入門的な研修や職場体験を実施するなどして新たな人材を掘り起こすこと。また、都市部では訪問介護職員の需要が高まっているため、その人材を確保するために福祉人材センターと連携をとり、働きながら介護職員初任者研修の資格取得を目指している人には、研修受講費を助成することなど、安定した人材確保のために、さまざまな案が検討されている。

介護職員も子育てしながら働ける環境整備も課題のひとつだ。介護の仕事と子育てが両立できるよう、短期間や短時間の勤務ができるよう、代替要員を確保できる環境も整えていく方針だ。

また、介護職員は体に負担のかかる業務が多いため、介護ロボットの開発と普及へのサポートも政策に含まれている。介護施設に介護ロボットを導入する経費を支援し、職員の負担減と、業務の効率アップを図る試みだ。

 

介護の受け皿の地域整備が加速化

高齢化社会が進むなか、自治体が主導する、高齢者が住み慣れた地域で介護や医療、生活支援サービスが受けられる「地域包括ケアシステム」の構築も急務の課題だ。すでに各地で整備されはじめているが、政府は、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる2025年をめどに、「地域包括ケアシステム」が構築されることを目指している。

2017年度予算案では、介護の受け皿を増やすため、地域密着型のサービス施設の整備にさらに公費を投入。施設の用地確保が円滑に進むよう一時金を支援したり、空き家などを再利用して設備を整える際の支援を行う。在宅・施設サービスを新設するための規制も緩和され、新規参入がしやすい環境を整えている。

 

2017年7月14日掲載